4月7日に「成年後見制度の事務の円滑化を図るための民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律」が、4月8日に「成年後見制度の利用の促進に関する法律」(いわゆる「成年後見利用促進法」)が、それぞれ国会で可決され、成立しました。
成年後見利用促進法の施行は公布の日から1か月以内、民法等の一部改正法の施行は公布の日から6か月経過の日から施行されるとのことですから、まずは早い時期に成年後見制度利用促進法に関する動きがあると思われます。成年後見制度利用促進法はプログラム法ですから、私たちがおこなう後見業務にすぐに具体的な影響を及ぼすわけではありませんが、ここで検討された後見制度に関する課題が解決されていくことにより、将来的に後見制度に大きな影響を及ぼしていくものと予想されます。よりよい制度改善に繋がること期待しています。
後見人にとっては、業務に具体的影響を及ぼすことになる民法等の一部改正については非常に気になるところです。今般の改正では、従来は成年後見人の権限とされていなかった、財産管理のための郵送物の転送と、死後の事務の一部の権限をおこなうことについて成年後見人の権限とされました。しかし、法律を見る限り、不十分と感じる部分も多く、かえって、実務において混乱を生じるのではないかとの不安もあります。
具体的にいくつかを挙げると、
①成年後見人については権限が明文化されたが、保佐人・補助人については認められなかったこと。保佐人であっても、死後事務等において成年後見人と同様の実務対応が必要な場合があるが、権限に含まれなかったことで保佐人・補助人にとって心理的な萎縮効果を生むのではないか
②財産管理のための郵送物の転送は、6か月ごとに家庭裁判所の嘱託によっておこなうこととされているが、現在の後見等事件数や今後の事件数増加見込みを考えると、その事務量は膨大になり、家庭裁判所は対応しきれないのではないか
③死後の事務に、葬儀等の執行が含まれていない。権限に含まれないことでかえって権限に含まれなかったことで後見人にとって心理的な萎縮効果を生むのではないか
④今般の改正で認められた、埋火葬に関する行為は家庭裁判所の許可が必要とされている。火葬は本人死亡後にすみやかにおこなう必要がある場合が多く、仮に遺体を葬儀場に長く安置すると会場費等の負担が増大することになる。土日祝日をはさむ場合にも家庭裁判所からすみやかな許可が出されるのか
⑤死後事務において、一定の債務の弁済の権限等が認められたが、そもそも金融機関は預貯金の引出しに対応してくれるのか
といった点があげられます。
施行までの6か月間で、実務運用の方向性がある程度見えてくると思われます。
今まで、権限がない中で必要性やむを得ずおこなってきた業務が、権限が明確化されることでかえっておこなえなくなることがないよう願ってやみません。(澤井靖人)
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3月10日(月)は、公益社団法人成年後見センター・リーガルサポート兵庫支部の成年後見研修会で「神戸家庭裁判所管内における後見制度支援信託の運用-運用開始から2年経過時における中間報告-」をテーマに講師を担当させていただきました。
後見制度支援信託とは、成年被後見人の財産のうち、日常的な支払いに必要な財産以外を信託銀行等に信託することにより親族後見人が管理する財産を必要最低限とすることで、横領等を防止しようとする仕組みです。
最近は、後見制度を利用しようとするご本人に一定額以上の財産がある場合には専門職後見人が選任される傾向がありますが、後見制度支援信託を利用することにより親族後見人が選任される可能性も高まります。その際、専門職後見人は信託銀行等との信託契約締結に関与することになります。(信託契約締結後に専門職後見人は辞任し、その後は親族後見人のみによる財産管理となります)
後見制度支援信託の運用が開始されて2年が経ちました。東京家庭裁判所管内では既に相当な数の利用がされているようですが、全国的にはまだまだ低調のようです。神戸家庭裁判所管内でもまだ本格的な運用には至っていません。
ただ、運用は拡がりをみせており、神戸家庭裁判所管内でも今後は後見制度支援信託の利用が増えていくものと思われます。(澤井靖人)
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東京都福祉保健局のホームページに「任意後見制度に関係する悪質な犯罪行為にご注意ください」との記事が掲載されました。任意後見に関するトラブルが増えている結果かと思います。
任意後見制度は、自分の信頼する人に将来を託すことができるという、ご本人の自己決定を尊重したすばらしい制度です。また、任意後見契約に見守り契約・財産管理委任契約(任意代理契約)・死後事務委任契約などを併せて締結することで、ご本人のご希望に沿ったきわめて自由度の高い設定ができます。反面、自由度が高いゆえの副作用も大きく、使い方を間違えると財産侵害につながりかねない制度でもあります。
東京都福祉保健局のホームページにもトラブル事例が掲載されていますが、他にも既に若干判断能力の低下した高齢者と多額な委任報酬を受領する任意後見契約を締結するなどの任意後見制度が悪質ビジネス化している事例もあるようです。
「任意後見制度1」でも述べましたが、任意後見契約を締結するにあたっては、相手が自分の財産を託すに足りる人物であるか、信頼できる人物であるか、最期までよい関係を維持できそうか、契約の締結までじっくりと時間をかけて考えることをお勧めします。そういう意味では、契約までの期間は「お見合い」のようなものかもしれません。
(澤井靖人)
任意後見制度に関係する悪質な犯罪行為にご注意ください(東京都福祉保健局)任意後見制度に関する改善提言(日本弁護士連合会)--------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------
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「母が最近物忘れがひどくなってきたように思います。成年後見人をつけなければなりませんか?」
と質問をいただくことがあります。
ご本人の判断能力が低下したからといって後見人を必ず選任しなければならないわけではありません。
財産管理や重要な法律判断を必要とせず、家族で支えていけるのであれば問題はありません。
ただ、ご本人名義の不動産を売却する必要が生じたり、重要な法律行為をおこなう必要が生じた場合には、ご本人の判断能力が不十分だとそもそもできませんので、後見人選任手続きをする必要が出てきます。
たとえば、認知症の母親が有料老人ホームに入所するための費用を確保するために母親名義の不動産を売却したいという場合であっても、不動産売買決済の場に立ち会う司法書士が「ご本人の」意思を確認する必要がありますので、ご本人のご意思が確認できない場合には、いくら娘が代理人として署名すると主張しても「成年後見人選任申立て手続きをしてください」と言われることになります。(不動産取引について 参照
当事務所ホームページ)
最近は、銀行の窓口で家族のかたがご本人の預金口座から引き出しをしようとしたができなかったことを理由に、成年後見人申立手続きを依頼されるかたも多いように感じます。ここで注意しなければいけないことがあります。
1つは、後見人は一度選任されたら、原則ご本人がお亡くなりになるまで辞められないということです。上記事例で、後見人が母親名義の不動産を売却したら後見人の仕事は終わりということにはなりません。
後見人は定期的に家庭裁判所に報告する必要がありますし、ご本人の財産をきっちりと分けて管理する必要があります。「家族だから」という理由で家族の家計と混同していい加減な管理をおこなっていると、後見人を解任されたり、場合によっては横領で告訴されることにもなりかねません。
2つは、必ずしもご親族が後見人に選ばれるわけではないということです。多額の財産があったり、重要な法律行為をおこなう必要がある場合は司法書士などの専門職後見人が選ばれる傾向があります。そして、財産管理や法律行為の判断は成年後見人があらためて判断することになりますので、専門職後見人が選ばれた場合、家族がいくら「母親名義の不動産を売却して欲しい」と主張しても、専門職後見人がその必要性がないと判断すれば売却はされないことになります。
3つは、以前のブログ
「家事事件手続法が施行されます」でも書きましたが、一度申立てをすると、原則として申立てを取り下げることはできません。
後見制度は判断能力が低下したご本人の権利を守る重要な制度です。ですが制度を利用した結果、「こんなことならば利用しなければよかった」ということにならないよう、よく制度を理解したうえで利用を検討することが重要です。
(澤井靖人)
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成年後見制度は、判断能力が不十分になった高齢者などの権利を守るための重要な選択肢のひとつですが、決して万能な制度ではありません。周囲が成年後見制度を利用したほうがよいと思っても利用につなげることが困難な場合があります。そんなケースをいくつかあげてみます。
1.診断書がとれない場合
母親Aさんと長女Bさんが同居して一緒に生活している場合に、次女のCさんから「母(Aさん)の判断能力が衰えたことをよいことに、姉のBが母の財産を勝手に使い込んでいる。成年後見人を選任して母の財産を守りたい。だが、Bが母(Aさん)を囲い込んでしまい、会わせてもらえない」との相談を受けたケースです。
財産搾取が事実であれば経済的虐待であり、緊急性を要しますが、母親Aさんへの面会が困難であり、診断書を取得することが難しいことからすぐに後見制度へつなげることは難しいです。成年後見制度は「判断能力の不十分」なかたのための制度です。医師の診断書はそのことを確認する重要な書類と位置づけられていますので、診断書がないと、いくら緊急性があっても家庭裁判所に申立てを受け付けてもらえません。(もちろん、診断書が取得できるなら、後見制度の利用は問題解決の方法の1つです)
経済的虐待の事実が間違いないのであれば、緊急対応が必要です。このような場合は、地域包括支援センター(神戸市の場合は「
あんしんすこやかセンター」)や各区の保健福祉部に通報し、行政に支援・連携を求めることになります。また、困ったときは私たち専門家に相談してください。
「高齢者・障害者権利擁護なんでも110番」などの無料相談窓口もあります。
(毎週第3火曜日13時~16時 TEL(078)362-0074)
あと、「母の浪費を止めたい」とのご相談もよくありますが、同様に診断書で判断能力の低下が認められない限り、ただ浪費癖があるというだけでは後見制度の利用は難しいです。平成12年の制度改正前の成年後見制度は、禁治産・準禁治産に分けられており、準禁治産には「浪費」も含まれていましたが、改正に伴い削除されました。
また、ご本人自身が後見開始申立てに協力的でなく、診断書がとれない場合も難しいです。ご本人が保佐・補助相当の場合によくあります。
少し長くなったのでつづきは次回に(澤井靖人)
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